交通事故業務

交通事故に伴う三つの責任

 交通事故を起こした加害者が負わなければならない責任には三つの責任があります。


【民事上の責任】

いわゆる損害賠償責任のことで交通事故の損害賠償責任については、

民法709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。


という規定が原則規定として適用されます。つまり、交通事故の加害者は被害者に対し民法上の不法行為に基づいて損害賠償の責任を負うことになります。


今仮にあなたが人をはねて死なせてしまったとして、あなたは被害者に少なくとも一億円の損害賠償を請求されることになりましょう。場合によっては二億円・三億円といった気の遠くなる額になることもあります。


加害者が被害者に対して賠償しなければならない損害には、大きく分けて積極的損害、得べかりし利益、慰謝料の三つがあります。




(積極損害とは)

治療費、入院費、葬儀費など被害者が現に支出し、将来確実に支出しなければならない損害を言います。


(得べかりし利益とは)

被害者が生きていれば、或いはケガをしなければ将来当然得られると予想される利益を言い、逸失利益とも呼ばれます。


(慰謝料とは)

被害者の被った精神的な苦痛にたいする代償として支払われるものです。


損害賠償の責任を負うのはもちろん加害者自身ですが、その他の者例えば加害運転者の雇主も使用者としていわゆる民法上の使用者責任を負います。

また、人身事故の場合には自動車の保有者が運行供用者として賠償責任を負うことになっています。




【刑事上の責任】

交通事故は、犯罪ですので事故を起こした人は刑事上の責任を問われ一定の刑罰を受けることとなります。

刑法211条は次のように定めています。


業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。


人身事故を起こした加害者がほとんど例外なく負わされる「業務上過失」とは一体どんな過失を言うのでしょう?
これは日常くり返し運転業務に従事している者がその運転中に犯した過失をいう意味です。

平成25年には、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律が新設され、第5条では

自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役もしくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。但し、その障害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。


とあり更に厳しくなっています。

週末だけドライブを楽しむマイカー族であっても事故を起こせば業務上過失或いは、過失運転致死を問われることとなります。




【行政上の責任】

交通事故を起こした者が受けなければならない第3の責苦は、行政上の処分つまり運転免許の取り消し、停止の処分です。この行政処分は、刑事責任とは別個のもので公安委員会がこれを扱っています。


行政処分を受けるときは同時に刑事上の責任を負わされるのが普通です。つまり同一の事故や違反に対して二重に処罰を受けるように感じますが、行政処分と刑事処分とは本来その性質も目的も違うのですから、別に矛盾しているとは言えません。

自動車損害賠償保障法

 交通事故の被害者が加害者に対して請求できる損害賠償の法的根拠は、民法709条の不法行為責任ですが、

通常、民法709条は、被害者が加害者の過失を証明する必要がありますが、その欠点を補うために自動車損害賠償責任法があり、被害者救済を第一の狙いとして存在する法律になります。




一番重要なのは、過失の立証責任の転換といったことになります。

挙証責任の転換というのは、過失の証明の責任を被害者から一転して加害者に負わせるということですが、自賠法三条では、加害者たる運行供用者にこの挙証責任を負わせることによって挙証責任の転換を図っているのです。

すなわち、「自己のために自動車を運行の用に供する者」は、


①自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと

②被害者又は運転者以外の第三者に故意または過失があったこと

③自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったこと


以上の三つの点をすべて証明しない限り責任を免れません

これは事実上無過失責任に等しいものとなっております。


民法上の「使用者」 自賠法上の「運行供用者」

交通事故にあった場合、被害者はまず事故の加害者である運転者にたいして損害賠償の請求をすることを考えます。


ところが、実際に交通事故で損害賠償の責任を負うのは運転者以外の人である場合が多いのが現状です。

それが、いわゆる民法上の『使用者』であり、自賠法の『運行供用者』です。そこでこの使用者や運行供用者が実際に責任を負うのはどんな場合か考えてみましょう。




使用者とは誰を指して言うのか?

民法715条をみますと

ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行につき第三者に加えたる損害を賠償する責任がある』旨の規定がありますが、この『ある事業のために他人を使用する者』がいわゆる『使用者』であるわけです。

つまり使用者とは会社のことを言います。


また、民法715条2項には、

使用者に代わって事業を監督する者は、使用者と同じ責任を負う』という監督責任者規定がございます。

使用者である会社に充分な賠償資力がない場合は、監督責任を持つ、社長個人にも損害賠償義務が発生することとなります。




使用者責任が生じるとき

使用者が被用者の起こした事故について責任を負うのは、その『事業の執行について』被用者が事故を起こしたばあいです。従って、被用者の起こした事故が、使用者の事業となんの関係もなければ使用者の責任は生じません。

桜酔書士ブログ「民法715条~使用者責任~」をご覧ください。

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■事業の執行ということ

そこで問題となるのがこの事業の執行ということになりますが、


判例では会社の荷物を運ぶとか、運転して取引に出かける或いは、会社の車で通勤中というのはもちろんのこと、マイカー通勤での事故の場合会社の車を持ち帰り無断使用による事故においても使用者責任を認める判例があります。


これは、被用者の自動車の運行に使用者の運行支配あるいは、運行利益の帰属等の考えに基づきます。


■使用関係の範囲

次に使用者責任が生じるためには使用者と被用者との関係が問題になります。使用者と被用者とのあいだにふつう雇用、委任契約などの関係がありますが、そのような関係がなくても、使用者と被用者との間に指揮監督の関係がありさえすれば、使用関係があるものとみなされます。


元請と下請親会社と子会社などの関係でも下請会社や子会社の車が事故を起こしたときにもし、元請や親会社から指揮、監督を受けているという事実があるならば、その元請、親会社の責任が問われることになります


■使用者責任の事実上の無過失責任

民法の使用者責任は過失責任ですから、例え被用者が事故を起こして他人に損害を与えても『被用者の選任およびその事業の監督について相当の注意を払ったとき、又は相当の注意を払っても事故を防ぐことができなかったとき』は使用者責任を負うことはありません。


ただし裁判所の考える選任監督の注意義務というのは、容易なことでは認められません。過去の裁判例でも使用者が被用者の選任監督について無過失であったことを主張して責任を免れたという例はまったくないといっても過言ではありません。


■自賠法上の運行供用者

自賠法上の運行供用者とは誰のことをいうのでしょうか?それは、『自己のために自動車を運行の用に供する者』を言い、事実上その自動車について運行支配権を持ち、その車の運行によって運行利益を得ていると思われるものが運行供用者となります。


具体的には自動車の保有者(雇主・使用者)、自家用車の持ち主(未成年者の親権者等)、自動車の貸主、名義を貸した者(特に名義を貸すことで運行利益を受けているなど)加害者本人以外にも責任が発生するケースが増えます。


自賠責保険について

自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)とは、自動車の運行による人身事故の被害者を救済するための保険です。

自動車損害賠償保障法により、原則としてすべての自動車(原動機付自転車を含みます。)について契約をすることが義務付けられていますので、強制保険ともいわれています。



■自賠責保険の特色

1.自動車の運行によって他人を死傷させた場合の人身事故による損害について支払われ物損は対象になりません


2.支払限度額は、被害者1名ごとに定められています。1つの事故で複数の被害者がいる場合でも、被害者1名あたりの支払限度額が減らされることはありません


3.被害者は、加害者が自賠責保険を契約している損害保険会社等に直接請求することができます。


4.当座の出費にあてるため、被害者に対する仮渡金の制度があります。


任意保険会社による一括払制度

自動車保険には、自賠責保険のほかに任意保険があります。そして、自動車保険のうちの対人賠償責任保険は、自賠責保険で支払われる金額を超えた部分の損害についてお支払いする保険です。


任意保険をご契約の場合には、任意保険の保険会社が、自賠責保険を立て替えて任意保険と一括して支払う制度(一括払い制度)があり、被害者にとっても便利な制度となっています。


なお、任意保険会社は、後日、立替金を自賠責保険の会社に対して直接請求することとなります。


自賠責保険請求手続きについて

自賠責保険は、加害者あるいは被害者のどちらからでも請求ができます。

主に行政書士がお手伝いできるのは、被害者請求となります。

被害者請求には、本請求仮渡金請求がございます。


■本請求

加害者から損害賠償金の支払いを速やかに受けられない場合に、被害者が加害者の加入している自賠責保険に直接、損害賠償額を請求する方法です。損害賠償額確定前であっても請求が可能です。


■仮渡金請求

当座の費用にお困りの時などに、傷害の態様に応じて請求することができます。詳細につきまして下記の表の通りとなります。


国土交通省ホームページより転載L記載

以上、交通事故の被害者に代わって代理請求という形で、煩雑な請求事務を行います。

また、被害者加入の任意保険に弁護士費用特約がついている場合、その費用が任意保険から出る可能性もございますので一度ご相談下さい。


自賠責保険の支払い基準

■傷害による損害

国土交通省ホームページより転載

■後遺障害の損害

後遺障害等級表はこちら

■死亡による損害

国土交通省ホームページより転載

■請求に必要な書類

国土交通省ホームページより転載

遺障害の等級認定

後遺障害の態様は、一人一人それぞれ異なるため自賠責保険では、後遺障害を16等級142項目の等級に分類し、迅速かつ公平な処理を試みています。


後遺障害部分の基礎となる慰謝料や労働能力喪失率などは、等級に応じてほぼ定型化されており、症状は同じでも等級が適正に評価されるか否かで、大きく損害賠償請求額が変わってきます。


後遺症の等級は損害賠償請求の基礎となりますので、適正な賠償を受けるためには、適正な等級認定を受ける必要があります。


事前認定と被害者請求

加害者側任意保険会社の「一括払い」で一定期間治療をしたけど、後遺症が残ってしまった場合、加害者側任意保険会社が、一括払いの流れのまま後遺障害等級認定の手続きをしてくれます。


これを「事前認定」といいます。事前認定は、任意保険会社が手続きをすべてやってくれるので、被害者は自ら書類や資料を揃える手間がかからない一方、保険会社担当者が適正な等級が認定されるよう、被害者に対して積極的にアドバイスや書類不備、検査不足をチェックし、病院に連絡をすることはほとんどありません。


一方、「被害者請求」という方法もあります。被害者請求は、被害者の側から等級認定を申請する方法です。

被害者請求は、被害者側から直接自賠責保険に請求する分、被害者側が自ら必要書類や立証資料を揃える手間が発生します




しかし、その分、適正な認定がなされるよう、自らの立証責任を果たすことができ、弁護士や行政書士等の専門家に依頼し、提出書類の内容を精査した上で申請することも可能です。


事前認定の場合、手続きが完了しても後遺障害等級が認定されるのみですが、被害者請求の場合は認定された等級に応じた自賠責限度額を、任意保険会社との示談を待たずに先取りできることが大きなメリットの一つです


例えば先取りした自賠責限度額を弁護士費用や当座の治療費に充てることも可能になります


支払・認定に不服がある場合の「異議申し立て」

自賠責保険の支払いや認定に不服がある場合、再申請が認められています。

再申請の手続きは、通称「異議申し立て」と呼ばれています。


その際は、書面をもって保険会社あてに「異議申し立て」の手続きをすることとなります。異議申し立ての内容を裏付ける新たな資料等を添付することとなりますが、


この点につきましても当行政書士事務所にご相談ください。


物損事故に関する損害賠償の範囲(相当因果関係)

交通事故に限らず、債務不履行や不法行為の損害賠償の範囲は、原則として「一般的、通常損害」に限られます。

これを相当因果関係論と呼びますが、基本的な考え方は賠償の対象となるのは、原則として「一般的、通常的な損害」に限定され、それ以外の損害は、「特別損害」として、具体的に予見可能であった場合にのみ対象となります




ここで何が通常損害にあたり、何が特別損害にあたるかが問題となります。

その判断についての基本的な考え方は、


第一に「直接被害者の原則」であり、家族や企業等の間接被害者は原則として賠償請求権を持ちません。


第二に「必要性と相当性の原則」であり、車の代車費用につきましても無条件に認められるわけではなく通勤などの必要性があり、期間につきましても「一般的な修理に相当する期間」となります。


ですので、不相当に高額な修理費用や不要な範囲の修理、あるいは時価額以上の損害の請求、車格落ち等の問題は、保険会社に却下されることとなりますので、ご注意ください


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